られるようになった。図−4に海洋中での非生物有機物粒子がどのようにして生成し、さらにその形を変えていくかについての考え方をまとめてみた。一見とんどん複雑になるように見えるが、これはどの研究分野でもその発展時期にはよく起こることである。今後はこれらの作用仮説を通じて、生物・生物化学作用と物理作用をあわせて有機物粒子のダイナミクスを統一的に解釈できるようになることが期待されるわけである。
5. まとめ−生物と有機物テトリタスが構成する階層構造−
地球は海の惑星と呼ばれ海洋という巨大な水界を持っている。この水界はそこに住む数多くの生物に陸の生物と異なった特徴を与えるとともに、生物が作り出す夥しい有機物のプールの役割も担っている。海洋中の生物が持つ有機物いわゆる生物量に比べて、数百倍もの生物由来の有機物が海洋には存在し、すでに紹介したマリンスノーから微小コロイド有機物、さらには遊離のアミノ酸などがこれらの有機物を形作っているのである。これらの有機物はこの20年でやっとその実態の一部が掴めかけたところであるが、すでに述べたようにこれら有機物の動きには生物の代謝や微小な場における混合・攪乱など物理的な要因が複合して働いていることがわかっていただけたと思う。
わが国の海洋科学はどちらかというと、海洋物理学は海洋大循環、海洋化学は、各元素の分布、海洋生物学は生物を中心とした生態学に重点をおき、マリンスノーや微小なコロイド粒子の動態といった境界領域の問題を避けて通ってきたように思われる。しかし海洋科学は本来海洋という場を総合的に捉える研究分野であり、このような境界領域の研究こそ、色々な得意分野を持つ研究者が共同してあたることのできる課題である。幸い最近になってわが国でも、海洋における物質循環、特に生物構成元素の循環の研究を、物理、化学、生物のそれぞれバックグラウンドを持つ研究者が、共同で研究を行ってきた実績が出来できた。このような共同研究を積極的に押し進めることができれば、複雑なネットワーク構造を持つと考えられる、様々な大きさの生物起源の有機物と生物群集の代謝について、次の10年の間にその実態をかなり明らかにすることが期待できるだろう。
参考文献
1)辻義人ほか(1991):マリンスノー密度の現場観測手法(クリアサイト法).海洋科学技術センター試験研究報告、7,63-71.
2)Hara Shigemitsu et al.(1991):Abmdance ofviruses in marine waters: assessment by epifluorescence and transmission electronmicroscope. Appl.Environ.Microbiol., 57,27312734.
3)Shanks, A.L&E.W.Edmondson(1989):Laboratory-made artificial marine snow:abiological model of the real thing. Mari.Biol., 101,463-470.
前ページ 目次へ 次ページ